本研究の目的は、医療政策研究の重要な一部分である政策分析の発展を意図し、特に英国での医療政策の形成過程における「患者の選択」をめぐるダイナミズムを明らかにすることである。具体的には、ブレア政権成立(1997年)からおおむね2009年までの英国の保健・医療政策(health policy)過程における「患者の選択」をめぐる以下のような問題群を明らかにすることを目指す。1)その社会の中で、政策課題がどのように焦点化され、また議論されているか。この際、関係するアクターがどのような役割を果たしているのか。2)それらの議論の中で、どのような政策が議論の対象として提出され、その政策が議論の過程でどのように変化し、最終的にどのような公共政策として結実したか。3)それぞれのアクターは、この過程の中で、どのような力(power)をどのように公使したか。4)「患者の選択」と関わって、健康・尊厳・自由・公平・効率・アカウンタビリティなどの政策上の重要な理念がどのような意味合いで用いられ、どのような議論を導いていったか。5)一連の議論の中で、保健・医療の課題や政策の実行や評価に関わってどのようなエビデンスが誰によって集約され、どのように提出されたか。そして、その提出された事項は政策をめぐる議論にどのように関わったのか。 上記目的を達成する方法として、ブレア政権成立(1997年)以後を中心に、(1)政策に関する分析軸をめぐる議論についての理論的検討、(2)研究対象期間における保健・医療政策についてのデータの収集、(3)分析と総合、(4)成果の発表、などを実施していく。なお、歴史的経過が重要な場合は、それらについてのデータ収集も行う。
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