本研究では、南半球春期に南極オゾンホール内のオゾン破壊分子を含む低オゾン濃度空気塊が中緯度地帯まで到来することによって中緯度地帯のオゾン層に与える影響を評価し、そのメカニズムに関するこれまでの知見を観測的に検証し、また新たな知見を得ることを目的に、地上ミリ波分光計を南米最南端近くのアルゼンチン共和国リオ・ガジェゴスに設置してオゾン等の高度分布の連続観測を行い、オゾン層変動の影響調査を行った。 本年度は、引き続きリオ・ガジェゴスへ移設したミリ波分光計によるオゾン高度分布の連続観測を行い、成層圏オゾンの時間変動データを取得した。9月にはこれまでの受信器に替えて110GHz帯超伝導受信器を搭載し、観測周波数を変更して観測を継続した。これにより大気透過率が良くなり、データ取得率がこれまでより約20%向上した。観測データの詳細解析については、1か月ごとに現地研究者にデータを日本に郵送してもらい、その後観測時の気象場データ等を利用した詳細な高度別のオゾン混合比時間変動解析を行った。 また、同じ施設内のオゾンライダーとの相互検証実験を定期的に行い、両者の高度ごとのオゾンデータの比較を行った。その結果、ミリ波によりオゾン混合比はライダーの値よりも15%程度低いことが見出された。両者の差が期間中ほぼ一定であることから、ミリ波装置の強度較正機構の問題である可能性が高いと考えられる。対策として、取得されたミリ波データに対して補正モデルを導入し、データの精度向上を図った。 さらにアルゼンチンにおいて、現地研究者に対してミリ波高度分布解析データだけでなくオゾンスペクトルデータも提供を始めた。また、高度分布解析手法を現地研究者に教授した。これにより、現地にて独自にミリ波データの解析が可能となり、現地研究者の所有するライダーによるオゾン・気温の観測データと組み合わせた特色あるオゾン変動解析を行った。
|