研究概要 |
本研究は,フィリピン・レイテ島の新生界から間嶋ほか(2007)によって報告された化学合成化石群集の詳細な地質調査と化石の産状記載,微化石の解析,自生炭酸塩の炭素・酸素安定同位体比測定,メタン湧水に伴う嫌気的メタン酸化の指標となる古細菌の脂質(バイオマーカー)の解析を行なうことにより,化学合成生態系の成立条件を明らかにする.申請者はここ2年間の予察調査で,群集は自生炭酸塩内にシロウリガイ類が密集するもの,大規模なスランプ構造に伴って化石が散在的に産出しているもの,生痕起源の巨大な自生炭酸塩と共存するもの,オイルサンドと共産するものなど化石の産状が極めてバラエティーに富んでいる事を確認している.これらの産状の詳細を明らかにすることは,化学合成生物群集の生物地理区や進化の解明,メタンの地球温暖化への影響評価など,非常に大きな貢献となる.さらにレイテ島および周辺地域の新生界を調査することにより,新たな化石群集の発見に努め,フィリピン新生界の化学合成化石群集の全貌を明らかにする. 化学合成化石群集の内冷湧水(Cold seep)群集は地質時代における地下からのメタン放出の直接の記録である.メタンは二酸化炭素に比較して数十倍の温室効果があり,地球の炭素循環とそれに関わる地球環境の変動,特に急激な地球温暖化と密接に関わることが最近明かになってきた(Kennett et al., 2003など).こうした観点から日本の化石群集をMajima et al.(2005)が,また世界の化石群集をCampbell (2006)が総括した.Campbell(2006)では東南アジア地域から冷湧水化学合成化石群集は全く産出しない事になっている.東南アジア地域の化学合成化石群集の詳細を明らかにすることは,過去のグローバルな環境変動の要因の一つとしてメタン放出を考える際に極めて重要であり,その意味で本研究の学術的価値は非常に大きいと考える.
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