研究概要 |
平成20年度においては,平成19年からカセサート大学(タイ)と共同プロジェクトとして開始したタイ・ナコンナヨック地点での原位置計測(項目:雨量強度・表面流・土壌水分量)を継続することで,雨季・乾季を通した通年での土壌水分量の変動について分析を実施した.この結果として,土壌水分量の年変動量を把握するとともに,地すべりの主要因となる降雨に起因する地中に貯留される水分量は,履歴降雨に依存することを解明した.すなわち,乾季においては,地中への浸透量は斜面表面付近の保有水の形成に消費されるためその水分量の変化が浅部に限定されるのに対して,雨季においては既に表面付近の地盤中に保有水が形成されているため,乾季に比較して地盤深部まで水分移動が生じることを解明した.したがって,このような地盤への保水特性から,雨季における「追い雨」により斜面崩壊が発生する可能性が高いことを明らかにした. また,原位置計測結果を解析するためのマルチタンクモデルシステムの拡張(解析パラメータの実測結果に基づく同定)を完了するとともに,同システムを用いてナコンナヨック地点における原位置計測データの分析・解析を実施した.まず,マルチタンクモデルシステムにおいて表面流をモデル化する上で重要なパラメータとなる,降雨の開始から表面流量が発生するまでの時間遅れ,すなわち欠損雨量(Lack of rainfall)は,当該サイトにおいては5mmであることを明らかにした.次に,観測期間に測定された降雨パターンを分類し,その結果よりマルチタンクモデルシステムに含まれるパラメータ(流出係数・浸透係数)の同定を実施した.この結果,流出係数は,降雨強度に依存して増加する傾向を明らかにした.このことより,現在日本で注目されているゲリラ降雨の降雨特性は,本質的に本研究で対象とするスコールと等価であることから,ゲリラ降雨の発生は,斜面崩壊に対して有意なハザードとなる危険性があることを明らかにした.
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