研究概要 |
現在の国内外での豪雨時の斜面崩壊に関する研究としては,降雨量を指標とした土砂災害早期警戒体制の立案を目指した研究が数多く報告されている.しかし,地表流を分離しない場合には,斜面の安定性を評価する上では過大評価となることは言うまでもない.特に,インドシナ地域での降雨は「スコール」と呼ばれる時間降雨が数10mm~数100mmの極めて降雨強度が大きいことから,すべての降雨が地中に浸透するとは考えられないため,このホートン地表流を分離して評価することが極めて重要となる.このような観点から,本研究ではタイ・ナコンナヨックの道路斜面において原位置モニタリング(項目:雨量強度・表面流・土壌水分量)を実施し,その計測結果に基づき土砂災害早期警戒体制のための基礎的検討を実施した.その結果として得られた知見は,以下のように要約される. ・短時間に高強度の降雨が発生する場合には,表面流が卓越し最大値が累積雨量の80%程度になる.この豪雨時に表面流が卓越することが,東南アジア諸国で多発しているガリ浸食に代表される斜面表面の浸食の発生要因となる.また,表面流は斜面法尻部に集中するとともに法尻部の地盤内への浸透も卓越するため,集中豪雨時の特有の浅層斜面崩壊は,法尻から発生する危険性が高い.この斜面法尻部における雨水浸透を抑制する対策としては,小段に設けられた排水工を十分に維持管理することによる表面流の流下抑制,および法尻部へのふとんかごの設置よる浸透抑制(排水促進)等があげられる. ・タイでの斜面崩壊事例の分析結果から,斜面内部に先行降雨の影響が残留している場合には,豪雨発生直後でも斜面崩壊が多発してことから,斜面崩壊には先行履歴降雨の影響を考慮する方法(先行履歴降雨指標API法)が提案されている.しかし,タイでは限界降雨曲線の設定は日雨量を用いたものとなっている.この課題に対処するため,当該サイトでの10分間雨量の値を用いた水収支計測結果に基づき,APIを改良した修正先行履歴降雨指標MAPIを提案した.この結果として,MAPIの変動は,当該斜面で観測された間隙圧の変動と調和的であることが確認され,MAPIが新たな通行規制体制における有効な降雨指標となる可能性がある.
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