本研究は、海外の地震国における歴史的組積造建築物を対象としたモニタリング調査を通じて、長い間、強地震動に耐えてきた建築物および近年の地震で被災した建築物の耐震性を明らかにし、それらの修復方法の検証を行うものである。 平成20年度には、長い歴史において強地震動に耐えてきたギリシャ・アテネのパルテノン神殿を主対象とした調査を実施し、アテネ工科大学、ギリシャ文化省、アクロポリス修復事務所の協力を得て、建造物と地盤の常時微動測定を行い、地震計を設置した。常時微動測定の結果、建造物の固有振動数は、梁平行方向に約3Hzであり、回転・せん断運動を仮定した多質点系モデルによる予測解析結果と整合し、解析モデルの検証を行うことができた。また、常時微動記録によりアクロポリス丘の地震動特性に及ぼす地形効果もおおむね把握され、パルテノン神殿が長い間強地震動に耐えてきたひとつの理由に考えられた。地震計は、2008年9月に基壇および建物頂部に設置して観測を始めているが、2009年3月現在、強震記録は得られていない。今後も地震モニタリングを継続する。 1999年アテネ地震で被災した世界遺産ダフニー修道院のモニタリング観測は、ギリシャ人研究協力者が引き続き実施している。2008年度は研究の初年度であり、現地での事前調査を行うとともに、ギリシャ人研究協力者を招聘し、パルテノン神殿とダフニー修道院の耐震性と保存修復事業について国内の専門家も参加したセミナーを行った。 なお、研究実施計画に挙げた、フィリピン・パオアイ教会の現地調査は、文化省に所属する研究協力者の退職および後任の未決定のため、2008年度での実施が困難となり、今後の課題とした。一方、2006年ジャワ島中部地震で被災したインドネシア・プランバナン寺院での地震モニタリングおよび亀裂変位・環境モニタリングは計画どおり実施しており、微小地震記録が得られるとともに、亀裂変位は安定していることを明らかにした。
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