平成22年度は、山西省での現地調査(8月)と3カ年の研究報告書の取り纏めを行った。現地調査では、主として静升村内の民居における神龕の調査を実施した。この調査は、王家大院の精神文化的な特徴を考察することを目的とするものであり、静升村内の街区と古民居の保存状態が良好な区域から選定した伝統的な合院住宅を対象に、合院空間における神龕の類型及び配置特性を調査し、王家大院との比較を行った。具体的には、神龕の位置と方位の調査及び聞き取り調査を実施し、祭神ごとの神龕の種類を考察・分類し、それぞれの配置場所や向きの分析を行った。その結果、静升村における主な神龕は、門神堂、土地堂、天地堂、吉星楼に分類でき、それぞれ職能差により、吉星楼>天地堂>土地堂>門神堂という神位のヒエラルキーが存在することが判明した。また、神龕の配置と向きを合院空間における空間のヒエラルキーと併せて考察してみると、吉星楼と天地堂が正房及び合院空間の奥の上位の場所に配置されるのに対し、土地堂は正房及び合院空間の次位に、また門神堂(画)は南房、表門などの合院空間の最下位に設けられることが認められた。ゆえに、静升村における神龕は北(奥)>東(正房に向かって右)>西(同左)>南(手前)という合院内における空間のヒエラルキーにしたがって設けられることが明らかになった。王家大院においても土地堂と門神堂の配置は同様であるが、しかし一方で、現段階では理由は不明だが、王家大院には神位の高い吉星楼と天地堂がほとんど存在しないという明確な特徴が存在することも判明した。
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