研究概要 |
(1)ドイインタノン山の標高2300mと1350m地点での着生植物のインベントリー調査を終了し、1700mの中核調査区における着生植物フロラと比較することで、標高トランセクトに沿った着生植物群集の変化を明らかにした。種類多様性は中核プロットで最も高いが、それぞれの標高でのみ出現する種も多く、着生群落構成種の標高傾度に沿ったβ多様性が高いことが示された。 (2)中核調査区での着生種についての詳細な同定を完了し、種子植物47属61種,シダ植物15属21種,蘚類79属135種、苔類28属76種、ツノゴケ類1属1種を確認した。このうち、蘇類について見出された2新種については論文として出版した。これらの成果から、当該調査区における着生植物多様性、特に蘇苔類の高い種多様性が明らかとなった。 (3)中核プロット内の超高木1個体について、レーザ距離計を内蔵した測量機器を利用して詳細な樹形測量を実施し、同時に着生植物バイオマスならびに着生基質となっているリター層の定量調査を実施することによって、樹冠内部でのバイオマスや着生基質量の詳細な分布と、枝の太さと階層による着生量の変化を定量的に表現することに成功した。今後の着生物を介した水循環や物質循環の調査に必要な、定量調査方法を確立することに成功した。また,上記の調査結果をもとに、着生植物群集の樹冠内部での分布を決定する要素として、着生基質であるリター集積量が重要な決定要因となっていることも明らかとなった。 (4)中核プロットにおける着生植物の高多様性は、超高木層を形成するMastixia euonymoides樹上における多様性の高さに依存している。このミズキ科の高木の分布は中国雲南省、北タイ、ミャンマー北部の雲霧帯の存在する下部山地帯に分布が限られている。現在の気候環境とともに、その標高帯に原生林が残りえた歴史性が、当該地域の着生植物の多様性を支えていると結論できた。
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