研究概要 |
盛夏に相当する7月下旬から8月上旬にかけて、研究代表者、連携研究者1名、研究協力者1名が高緯度北極スバールバル諸島のニーオルスンに滞在して野外調査を行った。今回は、特に有機物蓄積量および物質循環速度が大きいと予想される湿原を中心にデータを収集した。また、生態系炭素循環モデルによる気候変動の影響予測を行った。主な成果は以下の通りである。 1.ニーオルスンの西に位置する湿原を対象に、炭素蓄積量の調査を行った。主にコケからなる腐植層から深さ別にコアサンプルを採取し、その密度と炭素含有率から炭素蓄積量を求めたところ、腐植層表面から15cmまでにおよそ10kgC m^<-2>の有機炭素が蓄積されていると推定された。この値は氷河後退域の遷移後期における有機炭素蓄積量1.1~7.9kgC m^<-2>より大きく、湿原がこの地域の炭素シーケストレーションに非常に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、同じサンプルについて炭素年代測定を行い、炭素蓄積速度を推定したところ、氷河後退域にくらべはるかに速いことが明らかになった。 2,上記の湿原において、植生表面からの温室効果ガス(CO_2、CH_4、N_2O)のフラックス測定を行った。湿地を横切る200mのライン2本に沿って密閉式チャンバーを設置し、一定時間ごとに内部の空気をバイアル瓶に採取し、日本に持ち帰ってガスの定量を行った。現在、ガス放出速度と環境要因との関連について解析を進めている。 3.炭素循環モデルを用いて、氷河後退域の遷移後期を対象に炭素循環に対する気候変動の影響を予測した。その結果、温度条件は生態系炭素循環に大きく影響するが、降水量の増加の影響は小さいと予測された。また温暖化自体は、生態系純生産(NEP)にマイナスの影響を与えるが、優占種であるキョクチヤナギの着葉期間が延長すれば、NEPを増加させる可能性があることが示唆された。
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