流水性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、平成20年度はマレーシア領のマレー半島とボルネオ島のサラワク州において野外調査を行った。得られた標本や組織サンプルから系統分類学的な解析を行ったところ、主に以下の成果が得られた。1)コオロギヒキガエル属の各種の標本を山地渓流において採集してミトコンドリアDNAの塩基配列をもちいた分子系統解析を行った。その結果、ボルネオ島内の種多様性は近隣のフィリピンやマレー半島との間での侵入や分散の歴史が深く関わっていることが明らかになった。この成果は論文としてまとめ、専門誌に投稿予定である。2)ホソウデナガガエル属についてはボルネオから大陸までを含む多くの地点からのサンプルを入手して同じく分子系統解析を行って、ボルネオに分布する本属の種間の系統関係を調査して生物地理学的な解析に取り組んで成果が得られつつある。また、マレー半島のキャメロンハイランドにおいて本属の新種を夏に発見して、既に記載論文をZoological Science誌に掲載。またこれまでマレー半島のタイ領にしか知られていなかった本属の1種が半島南部のマレー領にも広く生息していることも音声学的、形態学的、分子系統学的な手法から明らかにした。3)マレー半島の小河川で採集したアシナシイモリ幼生の分子系統解析を行ったところ、半島部の複数の地点で2種が同所的に生息していることが明らかとなった。半島マレーシアで複数種が同所的に生息していることが初めて明らかになった。また、サラワク州のクバ国立公園でも2種のアシナシイモリを採集したが、そのうち1種は1965年に記載されて以来、初めて採集された個体である可能性が高い。
|