研究概要 |
今年度は,東北タイのSakaerat, Phu kao-Phuphan khamおよびPha taemの3地点で調査を行った.落葉林と常緑林および両者の境界付近にみられる落葉混交林において,1.5-2mの深さまで10cmごとに土壌を採取し,そこに含まれる植物珪酸体を調べた.同時に出土した炭化材から,各層位の年代測定を行った. 何れの調査地においても,落葉林からは炭化材が得られ,その推定年代は最も古いもので現在から8000年以上前であった.落葉林との境界にちかい常緑林からも炭化材が得られたが,常緑林の中心部では今までの調査において炭化材は見出されていない.したがって,落葉季節林では8000年以上前まえから森林火災が発生しており,火災に対して耐性をもつフタバガキ科樹種を中心とした現在の森林植生が形成・維持されてきた可能性が高い.火災の発生以前にどのような植生があったのかは現在解析中であるが,現在とは異なり火災に対して耐性を持たない樹種で構成されたものであったと推定される.一方,現在残っている常緑林では火災がほとんど発生することなく,元のままの形で維持されてきた可能性が高い.また,落葉林と常緑林の境界付近に見られる落葉混交林の調査からは,過去において落葉林であったことをしめすフタバガキ科樹種の珪酸体が見出された.このことから,過去の森林火災の履歴に応じてこの地域の森林植生は,落葉林,落葉混交林,常緑林の3つが形成されるものと推定される.
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