研究概要 |
今年度は,落葉フタバガキ林の現在の南限に近い中部タイと,落葉フタバガキ林の分布していない南タイの2箇所において,過去の森林植生を明らかにする目的で植物珪酸体分析と炭化木片の年代測定のための試料採取を行った. 中部タイPecthaburi周辺の落葉フタバガキ林と混合落葉林,および南タイTrang周辺の熱帯常緑林で森林土壌の調査を行った.タケの混じるPecthaburiの混合落葉林土壌から採取した炭化木片は,これまでで最も古い約1万年前の14C年代を記録した.最終氷期から間氷期に移行した直後から,この地域では森林火災が発生していたものと考えられる.一方,Trangの熱帯常緑林土壌から採取した炭化木片は,約9000年前の14C年代を記録した.この地域でもやはり古くから森林火災が発生していたことを示している.したがって,上記2つの場所ではかつては火災の発生しやすい落葉フタバガキ林が存在していたが,その後の温暖化とともに落葉フタバガキ林が北方に押しやられ,南から北上してきた混合落葉林や熱帯常緑林に置きかわった可能性がある.これについては,現在進めている,植物珪酸体の分析に基づいた樹種同定の結果を待たなければならない.落葉フタバガキ林は現在の南タイには分布してないが,落葉フタバガキ林を構成するフタバガキ科のShore siamensisはマレーシアの一部地域にも分布が確認されている.Trangでの調査結果と合わせて考えると,現在は中部タイ以北にしか分布していない落葉常緑林は,かつてはマレー半島の南部にまで分布を広げていた可能性が高い.
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