本研究は先行研究が全くない、ラオス北部メコン河支流の山間地河川ウー川中流域を調査地として、4年間、雨季と乾季、年に二回のフィールド調査を実施し、成魚の種同定と生態情報の収集、卵・仔稚魚の調査、水文環境・景観調査および水域環境測定等の環境特性の調査を行う。これらの調査によって得られた情報を基に山間地河川に生息する魚類の産卵場所・仔稚魚の成育場所の特性を解明し、水産資源の適切な管理と持続的利用に向けての具体的な方策を提言し、当該国・地域に貢献することを目的とする。本研究から得られる結果は学術的価値が非常に高いばかりでなく、東南アジアの地域住民の生業に関するヒューマンセキュリティーの一翼を担う第一次産業、特にタンパク質供給源のうち、ラオス・メコン河流域で重要な位置を占める水産資源の多様性維持と持続的利用に関して、重要かつ具体的に貢献ができるものである 平成20年度は雨季である8月に岩田とプーヴィンが、乾季の3月に岩田・竹門・プーヴィンが現地調査を行った。雨季の調査では稚魚は採集されたものの、仔魚が確認できなかった。一方、乾季には仔魚、稚魚ともに確認することができた。水文環境から、山間地河川に生息する魚類の仔魚は乾季には緩流域滞留型成長を、雨季には流水域流下型成長を行うという仮説が提示された。この仮説を検証するために、大型のプランクトンネットを用いて仔稚魚の流下を調査項目に加えた。さらに、この仮説検証のためには餌の分析が必須であると認識された。このため、平成21年度に仔稚魚・成魚、それらの餌および環境中の有機物に含まれる安定同位体元素を分析する準備のため、それに必要なサンプルの採取を開始した。この分析をとおして、成魚・仔稚魚を育む餌の由来を推定することで、当該地域に生息する魚類群集に重要な環境を解明することが可能となり、上記の提言をより具体的に実現させることができるものと推測された。
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