研究概要 |
研究代表者らは「トリのグリオーマso-called fowl glioma」がA型トリ白血病ウイルス(ALV-A)感染症であることを明らかにした。本疾患は1935年にドイツで初めて報告され, 1960年代まで欧米の地方病として散発していた。本研究課題の目的は1990年代に日本に出現したトリのグリオーマ原因ウイルス(FGV)の起原を明らかにするとともに, 神経病原性を獲得したALVのゲノム多様性を解析することである。初年度は日本国内の鶏を対象に疫学調査を行った。1.九州地方には頭部の形状が欧州種に類似することから江戸時代に海外から持ち込まれたと推察される久連子鶏が存在する。そこで, 久連子鶏ならびにこれらと同居する肥後チャボ, ゴイシチャボ, 欧州種セブライトバンタム, 計84羽のFGV感染率をnested PCRで検索した。その結果, 久連子鶏は全例陰性となったが, 肥後チャボ12羽とゴイシチャボ1羽が陽性となった。ゴイシチャボからはFGV近縁株が分離され, この鶏の脳にはグリオーマ類似の病変が認められた。一方, 肥後チャボとセブライトバンタムからはFGV近縁株は分離されず, env領域が内因性レトロウイルスev-1, ev-3と97%の相同性を持つALVが分離された。これらは複製能を持っため変異株が出現したと考えられる。現在これらALVについてゲノム全長のシークエンス解析を行っている。2.脚弱, 内臓腫瘍が多発した名古屋の採卵鶏の脳からALVのenvおよびLTRが検出され, これら領域はev-3, ev-1, ev-6, SD0501と99%の相同性を示した。しかし, ALVは分離できなかった。3.野生のスズメにリンパ腫様の腸疾患が認められ, ALVの関与を疑ったが, 原因はアトキソプラズマ感染であった。
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