研究概要 |
研究代表者は「トリのグリオーマfowl glioma」がA型トリ白血病ウイルス(ALV-A)感染症であることを明らかにした。本課題の目的は1990年代に日本に出現したトリのグリオーマ誘発ウイルス(FGV)の起原を明らかにするとともに,神経病原性を獲得したALVのゲノム多様性を解析することである。今年度得られた成績は以下の通りである。1.ドイツで系統維持されている鶏8系統,計42羽をFGV特異的nested PCRで検索したが,FGVは検出されなかった。現在,クロアカ拭い液からALVの分離を試みている。2.昭和中期からほぼ閉鎖的に維持され,ヨーロッパに輸出されたことのある熊本地方の日本鶏の脳を検索し,グリオーマ関連病変をもつ鶏からALV9株を分離した。PCR検出領域の塩基配列を解析すると4株はFGV変異株であった。しかし,残りのALVにはFGV特異配列の相同性が50%以下の2株(Km_5843,5844)とFGV特異配列を欠く2株(Km_5666,5845)が存在した。このため,Km_5666,Km_5843,Km_5845のウイルスゲノム全長の塩基配列を解析すると,これら3株のゲノム構造はほとんどの領域が内在性レトロウイルスALV ev-1に高い相同性を示し,Km_5666のenvのみFGVに高い相同性(95%)を示した。以上の成績から,熊本の日本鶏にはFGV変異株とev-1に由来するALVが感染しており,これらがグリオーマを引き起こしていると推察される。3.熊本の日本鶏から新たに神経周膜腫が発見され,FGVとは異なるALVが分離された。神経周膜腫の野外例からALVが分離されたのは世界で初めてのことである。4.グリオーマと心筋異常を併発した日本鶏が発見され,FGVとは異なるALVが分離された。
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