研究概要 |
研究代表者は「トリのグリオーマ」がA型トリ白血病ウイルス(ALV-A)感染症であることを明らかにした。本課題の目的は1990年代に日本に出現したトリのグリオーマ誘発ウイルス(FGV)の起原を明らかにするとともに,神経病原性を獲得したALVのゲノム多様性を解析することである。今年度得られた成績は以下の通りである。1.ドイツで維持されている鶏8系統,計42羽中37羽(88%)がFGV特異的nested PCR陽性を示したが,これら陽性鶏のいずれからもALVは分離されなかった。2.熊本地方の日本鶏にトリのグリオーマ関連病変が認められた。これら罹患鶏あるいはnested PCR陽性鶏から分離されたALV9株はFGV変異株と考えられたが,このうち4株はFGV特異配列を持っていなかった。3.国内で系統維持されている欧米産実験用鶏17系統,計49羽中24羽(49%)がFGV特異的nested PCR陽性を示したが,ALVは分離されなかった。4.国内外の鶏のゲノム,ならびにFGV特異配列を欠くALVが分離された鶏のゲノムを解析したところ,これら鶏ゲノムからFGV特異配列と91~99%の相同性を示すnested PCR産物が増幅された。一方,NCBI chicken genome BLASTによる相同性解析では,鶏ゲノムにFGV特異配列に類似する配列が存在しなかった。この成績から,鶏にはFGV特異配列を持つ未知の内在性トリレトロウイルスが存在することが示唆された。5.以上の成績から,FGVは海外で発生した本疾患の原因とは関連せず,国内の日本鶏の中で出現し,この出現にはFGV特異配列を持つ内在性トリレトロウイルスが関与していること,FGVはゲノム多様性を示しながら国内に拡散していることが推察された。
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