研究概要 |
本研究の目的は、ケニア・タンザニアおよびザンビアにおけるツエツエバエ分布状況及びトリパノソーマ感染状況を調査し、感染地域でのツエツエバエのトリパノソーマ保菌状況調査と保菌トリパノソーマの種・亜種同定を行うなど、極めて実践的かつ応用寄生虫病学的な観点から始まり、ツエツエバエとトリパノソーマの間に生じる様々な分子相互作用、すなわちベクター・パラサイト相互作用を解明していくという基礎寄生虫病学的研究を実施し、総合的なトリパノソーマ対策を学術的に創造していくことである。本年度は北大ザンビア拠点(杉本千尋拠点長)およびザンビア大学獣医学部の協力を得て、ザンビアおよびタンザニアでのツエツエバエ捕獲と分析用DNA抽出を実施した。得られた1,000検体以上のツエツエバエDNAサンプルの解析は現在PCR法、LAMP法などによって実施中であるが、既に、トリパノソーマ感染バエが多数検出されている。同時にツエツエバエが吸血した宿主の道程をミトコンドリアシトクロームb遺伝子のPCRダイレクトシークエンスによって解析した結果、ツエツエバエはヒトや各種野生動物など様々な宿主から吸血を行っていることが明らかとなりつつある。このような結果は人獣共通感染性トリパノソーマの疫学を理解する上で極めて示唆に富む。 一方、ベクター・パラサイト相互作用に関する研究では世界で初めてツエツエバエ体内型トリパノソーマであるエピマスティゴートステージ特異的に発現する主要表面分子(CESP)のクローニングに成功し、分子寄生虫学分野ではトップレベルの学術雑誌に成果を報告した(Sakuraiら(2008)Mol. Biochem. Parasitol.)。この成果はツエツエバエの体内でいかにしてトリパノソーマが発育増殖し、新たな動物宿主へと感染していくのか、解明する上で意義深い。
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