研究概要 |
最終年度は平成22年度に採取したウシ血液由来DNA105検体、ヤギ血液由来DNA36検体、ツェツェバエDNA546検体をヒト急性アフリカトリパノソーマ(HAT)検出用PCR,家畜アフリカトリパノソーマ検出用PCRおよび我々が開発したトリパノゾーン亜属特異的LAMP法を用いて検査した。その結果、LAMP法ではトリパノソーマ保有率がウシ27%、ヤギ11%、ツェツェバエ3.5%と、極めて高い感染率であった。トリパノゾーン亜属はHATおよび家畜のアフリカトリパノソーマ症の原因となるトリパノソーマを含む分類群であるため、H21年度にツェツェバエから高い頻度でHATが検出された結果と総合すると、調査地域のザンビア北東部では家畜がHATの待機宿主となっていることが明らかとなった。現在これらの結果を取りまとめて学術雑誌投稿準備中である。 本調査では検体のトリパノソーマ感染を証明できる方法として遺伝子増幅法(PCRとLAMP)を用いたが、現場レベルでは野外調査で実施可能な簡便血清診断法の必要性が高い。現在利用可能なアフリカトリパノソーマ用血清診断法はその精度と感度に問題が多いと指摘されていることから、我々は新規血清診断法の開発に取り組んでいる。アミノ酸配列の反復を持つ抗原(TR抗原)はアフリカトリパノソーマと近縁のリーシュマニアで診断用抗原として実用化されていることから、トリパノソーマのTR抗原をバイオインフォマティックスによって同定し、その分子性状を解析して論文発表した(Goto Y., et al.2011)。なかでもTbbGM6抗原が診断用抗原として優れている結果を得ているため、同抗原の評価検討を実施し、こちらの結果も論文投稿中である。 今年度得られた成果によって(1)ザンビア北東部でのHAT流行と家畜待機宿主との因果関係を明らかにし、(2)新たな簡易血清診断用抗原候補を同定することができた。今後さらに研究を発展させることで、アフリカトリパノソーマ症の疫学と早期診断法、ひいては同感染症のコントロールに貢献できると考えられる。
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