研究概要 |
フィリピン共和国厚生省の疫学センターが主導する全国サーベイランスの事業の一部として、マニラ首都圏、セブ都市圏、ミンダナオ島(サンボアンガ市・ジェネラルサントス市)の3地域の注射薬物使用者のHIVとC型肝炎ウイルス(HCV)の解析が可能になった。3地域それぞれ、年間に300サンプル合計900サンプルの採取が予定され、2009年1-3月からサンプル採取が始まった。さらに、マニラ首都圏では、透析患者のHIV, HCVの解析も可能になり、2009年度から本格始動する。 血清学的解析により、注射薬物使用者でさえHIV感染事例が少ないことが既に判明している。その一方、注射薬物使用者にはHCVの流行がすでに定着していることが明らかになった。そのため、HIVと同様に血液媒介感染経路が流行のきっかけを作ると仮定されるHCVを代替マーカーとして加え、その株の侵入門戸を調査した。その結果、マニラ首都圏にのみHCV-genbotype-1bが検出された他、HCV-genotype-1a株の中にもマニラ首都圏にのみ特有の株がみられた。このマニラ特有のHCV genotype-1a株の遺伝子配列は、フィリピン国内の他地域のいずれの株にも近似せず、むしろ海外の株に近縁であった(Kageyama S. et al. J Med Virol, in press)。この結果は、HCVの侵入門戸のひとつがマニラ首都圏であることを示唆しており、かつ、HIVも同様にマニラ首都圏からフィリピンに侵入する可能性が高いことを示唆するものである。したがって、今後の焦点は、マニラのHCV株の特殊性を慎重に確認した上で、マニラ首都圏に侵入する外来の株を発見し、阻止する方法論の開発になる。
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