「HIV流行の本格化の主要因は血液媒介経路である」と仮定し、その検証作業を続けてきた。 昨年度までの調査は以下の事柄を示唆した。第一に、血液を媒介にしたHIVの流行は、HCVの流行に遅れることが多いと推測され、HCVを指標にした血液媒介感染の核になる地域と集団の特定に期待をもたせた。第二に、そのHCVには地域により異なる特徴があった。マニラ首都圏の感染者の特定は難しく観察症例数は少ないものの、セブ地区よりも多様なHCV株が見られることが判明し、首都圏の方が血液媒介によるHIV流行は早いものと推測された。 本年度に行われたフィリピン政府による全国サーベイランスは、過去最大規模になり総計1万5千人程度に達した。このうち、1000人程から血漿を採取し血清検査を終了した。現在、病原体解析が進行中である。前回のサーベイランスと比較して把握したHIV感染者数が、7名から70名へと10倍に増加した。過去1-2年間に、感染者が急に増加したのか、把握の精度が向上したのか、その何れかを確定するための解析が進行中であり、来年度の中心課題になった。 特に、セブ都市圏において、追加調査を併せ過去最大のHIV感染者(年間に78名の観察事例)が発見された。2008年度までの観察事例は年間2名程度であり、昨年度中にHIV感染者数が急激に増加したように見える。しかも、この地域のHIV感染者(78名)は、全て抗HCV抗体保有者であり、血液媒介感染者にHIV感染が多発しているように見える。すなわち、少なくともセブ地区のある集団において、血液を媒介にした感染が多発し、HCV感染履歴のある集団にHIV感染が重層するという構図がみられる。 さらに、上記のHCVの多様性の検討結果を併せて考えると、セブ都市圏の傾向は、首都圏でも急激な血液媒介HIV感染が進んでいることを危惧させるが、その実態はいまのところ不明である。
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