研究概要 |
これまで、ネパールにおいては、世界的にもきわめて特殊なG12ロタウイルス株が流行していることを報告してきた。本研究では、ワクチン導入前のネパールにおける重症ロタウイルス下痢症の発生状況(基幹小児病院における調査)および野生株の流行動態(ロタウイルス陽性検体の分子疫学的解析)を調査した。特に世界的にまれでありながらネパールにおいて優勢を占めるG12P[6]ウイルス株の動態について明確にし、ワクチンによる介入のない状態での基盤資料を整備した。具体的には、本年度を含め2003年以来のネパールにおけるG12P[6]株は約30%という高率を維持しながら流行していることがわかった。そこで、2007年11月から2010年2月までに収集したG12P[6]株145株について、ゲノムRNAの電気泳動を繰り返し、15のelectropherotype、すなわち15種類のG12P[6]ウイルス株が存在することを明らかにした。これは、ネパールにおいてはG12P[6]という遺伝子型が何年にもわたり続いており、また、ロタウイルスの流行が年間を通じてみられるにもかかわらず、ただ1種類のG12P[6]ウイルス株が流行しているのではなく、多数の異なる株が流行していたことを示している。さらに、これら15種類のG12P[6]の間には出現頻度に大きな差があり、LP1,LP24,およびLP27.という3種類のウイルス株が、この順序に、ほぼ置き換わるようにして出現してきていることが分かった。このことから、G12P[6]ウイルス株は、多数の同時に流行している株の中からよりフィットネスが高いウイルス株が出現し優勢になると、ふたたび別のさらにフィットネスが高いウイルス株に置換されるというダイナミックな動態をとりながら進化しているものと考えられる。
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