研究課題
ナノ素材の安全性に社会的関心が集まっているが、関連研究の多くはin vitro研究または気管内投与動物実験であり、ヒトに対する健康影響を調べた研究はほとんど無い。本研究では中国におけるナノ素材製造・取扱い職場に働く労働者の心肺機能を中心とした健康への影響とナノ素材曝露との関連を調べ、ナノ素材リスク評価のための科学的基礎資料を作成することを目的に開始した。本年度は中国の上海市にあるナノ素材(酸化チタン)取扱い工場に働く労働者男性12人を対象に、問診、理学的検査、胸部X線撮影、スパイロメーター、心電図、心エコーによる評価を行った。労働現場の調査では、職場において事務室を含む5-10箇所のポイントを決め、CPC(Condensation Particle Counter)、OPC(Optical Particle Counter)を用いて、ミクロン領域のサイズ別分布および、100ナノメートル以下粒子数の計測をした。CPCとOPCの測定値の差を用いてナノ粒子数を理論的近似値として推定した。またLow Pressure Impact Separatorを3人の労働者に装着し、粒子サイズ別の重量濃度を測定した。健康調査の結果、1人の労働者の胸部X線写真に粒状影が見つかり、もう1人は心エコーにより、大動脈弁狭窄が見つかったが、酸化チタン曝露との関連ははっきりしなかった。また、肺が線維化をおこしている労働者や、スパイロメーターで、呼吸器の機能的異常がある労働者はいなかった。CPCで測定した粒子の数は、計測場所の見た目の埃っぽさとは関係がないことがわかり、肉眼的埃っぽさは凝集体によるものと考えられた。本調査により、ナノマテリアルは、高濃度では凝集しやすいため、ヒトへの健康影響を考える上では、凝集体の影響も検討する必要があることが明らかになった。
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Biochem Biophys Res Commun (in press)
Curr Pharm Des 14
ページ: 3590-3600