スリランカでは我が国のような国勢調査は実施されていないが、各医療管轄区において、一定単位の住戸数の人口調査(粗)情報を地域保健の担当者が個別に保有している現状である。そこで先ず、その「粗情報」を管轄区全体のbaselineデータベースとして整備した。それをもとに、首都Colomboの北に位置するRagama地区では横断調査を実施し、3012名の被験者から試料等(アンケート調査票への回答と空腹時に採取された血液10ml)を収集した。また、内陸部の、比較的隔離された環境下で生活を営む人々を対象としたTea Factory Studyとして、Talawakelle estateを対象に、居住者の約半分に相当する403人の全数調査(健診)を行った。主に肥満度の違いを反映して、メタボリックシンドロームの頻度も両地域間で大きく異なっていた。男性では糖尿病(23% vs. 25%)、高血圧(41% vs. 50%)、脂質代謝異常(50% vs. 69%)、女性では、糖尿病(25% vs. 11%)、高血圧(48% vs. 46%)、脂質代謝異常(54% vs. 45%)と各リスク要因の頻度は相当に高く(カッコ内はRagama地区vs. Tea estateでの罹病率)、特に糖尿病に関しては、欧米人型の「肥満→インスリン抵抗性」という機序だけでは説明できない要因の存在が推測された。すなわち、身体活動量が高く、比較的痩せているTea estateの住民においても、欧米化の進むRagama地区の人々とほぼ同程度に糖尿病罹病率は高かった。ただし、欧米化の進むRagama地区では、各年齢階層とも、ウェスト周囲径野平均値は男性で85~88cmであり、極度の肥満ではないもののの、内蔵脂肪の蓄積とインスリン抵抗性、それに伴う糖尿病の罹患率上昇があり、加えて特有な(糖尿病)素因の関与が基盤病態を成すと推察された。
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