スリランカでは我が国のような国勢調査は実施されていないが、各医療管轄区において、一定単位の住戸数の人口調査(粗)情報を地域保健の担当者が個別に保有している現状である。そこで先ず、その「粗情報」を管轄区全体のbaselineデータベースとして整備した。それをもとに、首都Colomboの北に位置するRagama地区(比較的欧米化の進んだ地域)では横断調査を実施し、3012名の被験者から試料等(アンケート調査票への回答と空腹時に採取された血液10ml)を収集した。また、内陸部の、比較的隔離された環境下で生活を営む人々を対象としたTea Factory Studyとして、Talawakelle estateを対象に、居住者の約半分に相当する403人の全数調査(健診)を行った。収集データを基に地域間比較したところ、Ragama地区で、男性の喫煙(62%vs.43%:ex+current)、飲酒(77%vs.73%:ex+current)、低身体活動度(38.6%vs.24%:low+moderate)の比率が高く、不摂生な生活習慣が顕在化していた。それと一致して、空腹時血糖(118.2vs.110.2mg/dl)、BMI(23.1vs.21.2mg/dl)、LDL-C(129.1vs.118.6mg/dl)等の心血管病リスクは上昇傾向を示した。しかし、拡張期血圧(79.2vs.86.3mmHg)、HDL-C(48.8vs.44.5mg/dl)、中性脂肪(138.1vs.155.2mg/dl)等に関してはむしろリスク低下傾向を示していた〔いずれも男性のデータを示す〕。また各疾病の診断は、男性では糖尿病(23%vs.25%)、高血圧(41%vs.50%)、脂質代謝異常(50%vs.69%)であった。すなわち「生活習慣の欧米化→全ての心血管病リスク増加」と単純には説明できず、遺伝素因、地域特異的要因(食事の違いなど)を考慮すべきことが判明した。
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