研究概要 |
以下の2つを目的として研究を開始した。(1)マラリア流行地域におけるグルコース6-リン酸脱水酵素(glucose6-phosphate dehydrogenase)欠損症を,日本人により開発された迅速・簡便な方法で検出し,その変異者の比率を国・地域・民族別に比較する。(2)その変異部位を遺伝子レベルで解明することにより,民族の起源考証に役立つ資料を提供する。 今年度は西アフリカのシエラレオネから得られた検体を第一に,ついでマレーシアの検体,ベトナムの検体について分析し,論文報告をおこなった。さらに東南アジアでまだ調査が十分行なわれていないラオスを訪問し,共同研究の手がかりを得た。 シエラレオネでは東南アジアで得られていたG6PD変異型と全く異なる変異型が得られた。すなわちA型(376A>G)とA-型(202G>A,376A>G)が大多数であった。A型は塩基置換により一つのアミノ酸置換が起きているものの,G6PD活性は野生型の50%から70%あるため,変異型保有者の日常生活にはほとんど不自由がない。置換アミノ酸も126Asn>Aspの同属変異であり,酵素の立体構造にあまり影響がないものと類推された。一方A-型は,2ヶ所にアミノ酸置換が起きており(68Val>Metと126Asn>Asp)このため酵素活性は10%以下になってしまっている。今回の調査ではこれらに加えて新規の変異型(311G>A,376A>G)を見いだした。104Arg>Hisと126Asn>Aspの2ヶ所にアミノ酸置換が起きており,酵素活性も10%以下であった。この新規変異にG6PD Sierra Leoneと命名した。 はじめて調査に入ったラオスではカウンターパートにG6PD活性検査方法を提示した。彼らは意欲的で,G6PD検査に強い関心を示してくれた。今後ラオス各地方からの検体収集にあたりたいと約束してくれた。
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