エジプトの鳥インフルエンザウイルスH5N1の疫学調査とそのウイルス学的研究

2009 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 20406025
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 生田 和良 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (60127181)
• 研究分担者: 作道 章一 琉球大学, 医学部・保健学科, 准教授 (10397672) ; 中屋 隆明 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (80271633) ; 高橋 和郎 大阪府立公衆衛生研究所, 研究員 (10171472) ; 纐纈 律子 財団法人阪大微生物病研究会, 共同研究員 (80467521)
• キーワード: 鳥インフルエンザウイルス / エジプト / アレキサンドリア大学 / ニワトリ / アヒル / ハト / 遺伝子配列 / 病原性

研究概要

H5N1亜型高病原性トリインフルエンザウイルス(HPAIV H5N1)は現在、一部の地域において感染を繰り返す流行域を獲得している。同地域においては、致死率の高いヒト感染例が散発的に確認され、重大な社会問題となると同時に、断続的なウイルス伝播が新たな変異を誘導し、HPAIVがヒトに対してパンデミックとなる懸念が指摘されている。エジプトは現在、世界的にも多くのHPAIV感染者を出している流行国の1つである。
本研究においては、エジプトで飼育されている家禽からHPAIV分離を試み、得られた遺伝子配列から分子疫学調査を実施した。その結果、エジプトにHPAIVが初めて導入された2006年に比べて、2008-09年のウイルスは多様な遺伝子進化を獲得していることが明らかとなった。また、分離ウイルスを用いた糖鎖親和性の解析より、系統樹において各ブランチに属するウイルスが特定の糖鎖親和性を獲得していることが示唆された。このことは、エジプトにおいて、様々な糖鎖親和性を獲得した変異ウイルスが出現しつつあることを示しており、同国におけるHPAIVのサーベイランス強化とウイルス学的解析の必要性が示された。さらに、他のHPAIV流広域においても、同様のウイルス多様性の獲得が起こっているのか注視する必要があると考えられた。本研究で明らかとなった知見は、エジプト国における防疫対策に留まらず、世界規模でHPAIV感染拡大が懸念される現状において、日本国にとっても防疫上、重要な知見であると考えられる。
また、迅速診断キット(イムノクロマト法)を用いたHPAIVH5N1感染の迅速診断法を確立する前段階として、家禽サンプルを対象に同診断キットの性能を評価した。その結果、診断キットが家禽におけるHPAIV H5N1感染を高感度かつ亜型特異的に検出できることが明らかとなった。

研究成果

• [雑誌論文] Highly pathogenic H5N1 avian influenza virus induces extracellular Ca2+ influx, leading to apoptosis in avian cells. (2010)
  • 著者名/発表者名: Ueda M, Daidoji T, Du A, Yang CS, Ibrahim MS, Ikuta K, Nakaya T.: Ueda M, Daidoji T, Du A, Yang CS, Ibrahim M S, Ikuta K, Nakaya T.
  • 雑誌名: J.Virol. 84 ページ: 3068-3078
  • 査読あり
• [雑誌論文] Detection of circulating Asian H5N1 viruses by a newly established monoclonal antibody. (2009)
  • 著者名/発表者名: Du, A., Daidoji, T., Koma, T., Ibrahim, M.S., Nakamura, S., de Silva, U.C., Ueda, M., Yang, C.S., Yasunaga, T., Ikuta, K., Nakaya, T.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. 378 ページ: 197-202
  • 査読あり
• [雑誌論文] Anionic polymer, poly(methyl vinyl ether-maleic anhydride)-coated beads-based capture of human influenza A and B virus. (2009)
  • 著者名/発表者名: Sakudo, A., Baba, K., Tsukamo to, M., Sugimoto, A., Okada, T., Kobayashi, T., Kawashita, N., Takagi, T., Ikuta, K.
  • 雑誌名: Bioorg. Med. Chem. 17 ページ: 752-757
  • 査読あり
• [雑誌論文] Direct metagenomic detection of viral pathogens in nasal and fecal specimens using an unbiased high-throughput sequencing approach. (2009)
  • 著者名/発表者名: Nakamura, S., Yang, C.S., Sakon, N., Ueda, M., Tougan, T., Yamashita, A., Goto, N., Takahashi, K., Yasunaga, T., Ikuta, K., Mizutani, T., Okamoto, Y., Tagami, M., Morita, R., Maeda, N., Kawai, J., Hayashizaki, Y., Nagai, Y., Horii, T., Iida, T., Nakaya, T.
  • 雑誌名: PLoS One 4 ページ: e4219
  • 査読あり
• [雑誌論文] Broad neutralizing human monoclonal antibodies against influenza virus from vaccinated healthy donors. (2009)
  • 著者名/発表者名: Kubota-Koketsu, R., Mizuta, H., Oshita, M., Ideno, S., Yunoki, M., Kuhara, M., Yamamoto, N., Okuno, Y., Ikuta, K.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. 387 ページ: 180-185
  • 査読あり
• [雑誌論文] Amantadine- and oseltamivir-resistant variants of influenza A viruses in Thailand (2009)
  • 著者名/発表者名: Bai, G.-R., Chittaganpitch, M., Kawai, Y., Li, Y.- G., Auwanit, W., Ikuta, K., Sawanpanyalert, P.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. 390 ページ: 897-901
  • 査読あり
• [雑誌論文] Significant neutralizing activity of human immunoglobulin preparations against pandemic 2009 H1N1. (2009)
  • 著者名/発表者名: Yunoki, M., Kubota-Koketsu, R., Urayama, T., Sasaki, T., Du, A., Konoshima, Y., Ideno, S., Fukunaga, Y., Morikawa, S., Hiroi, S., Takahashi, K., Okuno, Y., Hagiwara, K, Ikuta, K.
  • 雑誌名: Br. J.Haematol. 143 ページ: 953-955
  • 査読あり
• [雑誌論文] Highly conserved sequences for human neutralization epitope on hemagglutinin of influenza A viruses H3N2, H1N1 and H5N1 : Implication for human monoclonal antibody recognition. (2009)
  • 著者名/発表者名: Yamashita, A., Kawashita, N., Kubota-Koketsu, R., Inoue, Y., Watanabe, Y., Ibrahim, M.S., Ideno, S., Yunoki, M., Okuno, Y., Takagi, T., Yasunaga, T., Ikuta, K.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. In press ページ: e4219
  • 査読あり
• [学会発表] アヒル固体内の各臓器で選択されたH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの性状 (2009)
  • 著者名/発表者名: 渡辺洋平、M.S.Ibrahim, H.F.Ellakany, 生田和良
  • 学会等名: ウイルス学会
  • 発表場所: 都市センターホテル
  • 年月日: 2009-09-26
• [学会発表] Propagation-specific sequence changes of highly pathogenic avian influenza H5N1viruses (2009)
  • 著者名/発表者名: Ibrahim, B.S., 渡辺洋平、生田和良
  • 学会等名: ウイルス学会
  • 発表場所: 都市センターホテル
  • 年月日: 2009-09-25
• [備考]
  • URL: http://virology.biken.osaka-u.ac.jp/index.html