研究概要 |
1949年から1989年の間に,旧ソ連(現カザフスタン共和国)セミパラチンスク核実験場(SNT)において458回の核実験(地上30回,大気中88回,地下340回)が行われ、SNT地域住民に急性・慢性の放射能被爆をもたらし,高い頻度で造血系,循環器系,腫瘍性疾患等が発症している。私たちは,平成12年・17年の調査で、SNT周辺の高線量被爆地域 : HIR(1. OSv以上)における唇顎口蓋裂発症率および口腔疾患罹患率は中等度被爆地域MIR(0.5-1. OSv)や対照地域 : CONと比較して有意に上昇していること、HIRの欠損歯数,口腔疾患罹患率,全身疾患罹患率はCONと比較して有意に上昇していることを明らかにした。本年度は、平成16-18年度に核実験場周辺住民から採取した血液および唾液・歯垢由来のDNAを用いてIL-1α(889)およびIL-1β(-511)遺伝子多型)および口腔常在菌ならびにHelicobactor pylori : H.pについてPCR法を用いて検討するとともに、日本人患者及び健常人における口腔常在菌ならびにH.pについてもPCR法を用いて検討し、カザフスタンと日本での比較検討を行った。また、従来調査されていなかった、東部地区のウスチカメノゴルスク地区の調査を行った。その結果、CONとHIRの成人で,因子A[IL-1α(889),IL-1β(-511)遺伝子多型]と因子B[地域差]を従属変数,喪失歯数(CON : 10.37本,HIR : 15.43本)を目的変数として,二元配置法による分散分析を行い,遺伝子多型により喪失歯数の違いがみられた(p<0.01)。また、地域差がより大きな喪失歯数への影響因子と考えられ,その因子として放射線の影響が最も強く疑われた。また、SNTS周辺住民における歯周病原菌の検出頻度と歯周病態は相関しており、歯周病発症に関与する細菌叢の成立には特にA. a, T. d, P. iの3菌種が深く関わっていることが示唆された。また小児期からP.gを高頻度に認めた。日本人に比べ歯周病発症のリスクが高いと考えられた。H.p感染率は欧米などでは低く、アジア・アフリカでは高い。SNTS周辺住民の感染パターンはザイールと類似していた。HIR地域住民における高い喪失歯数は、口腔内細菌叢の変化ではなく環境因子や宿主側因子に起因することが示唆された。さらにSNTからかなり離れた、ウスチカメノゴルスク地区においても予想以上の影響があることが判明した。この地区は中国のロプノール核実験場にも近いことから、SNT以外にその影響も関与していることが考えられ今後さらに検討したい。
|