研究概要 |
Nashゲーム問題を考えるとき,通常,Nash均衡状態はPareto最適の状態,すなわち各プレーヤのコストの総和が最小とは限らないことが従来から知られている.そこで,Pareto最適性も同時に保障できれば,各プレーヤのコストの合計が最小となり,現実問題として非常に理想的な状態を獲得することが可能となると考えられる.本研究では,離散時間弱結合大規模確率システムのためのNashゲームの特性を考察した.不確定要素を確率過程によるノイズとして表現するため,従来の結果より不確定要素に対してロバストな戦略を構築することが可能である.離散時間弱結合大規模確率システムを扱うことで,各サブシステムの結合の強さを表現する摂動項に依存しない近似確率Pareto分散戦略が,近似確率Nash均衡状態を満足するだけでなく確率Pareto準最適性を満足することを新規に示した.これは,「各サブシステムごとに設計された近似確率Pareto分散戦略は,近似Nash均衡状態を実現できる」という結果である.この結果によれば,わざわざNash均衡を実現するフルオーダの戦略を構築しなくても,各サブシステムごとに近似確率Pareto分散戦略を設計すれば,近似Nash均衡が実現できることを示しており,実システムに適用する際,非常に有用な知見を与えた.また,提案された近似戦略が,摂動項に依存しない低次元の線形行列不等式LMIを解くことによって,構築できることを新規に示した.その結果,摂動項が未知であっても,十分小さければ提案された近似確率Pareto分散戦略は近似確率Nash均衡状態を達成し,かつ各プレーヤのコストの総和が準最適となることが示された.これらの特徴は,初めて理論的に示された点で大変評価できる斬新な結果である.
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