研究概要 |
本研究では,コンパイル時に静的に解析したクリティカルパス情報を用いて,実行時の命令ステアリングを効率化しようとしている。昨年度までの研究では,動的情報を全く使用せず,コンパイル時にステアリングまで行なってしまう完全静的方式についての評価を行なっていた.動的情報と静的情報を組み合わせたハイブリッド方式と完全静的方式の比較を行なうためには,マルチコアプロセッサの評価環境が必要となる.本年度の研究では,SimpleScalar や Valgrindの代わりにSimicsシミュレータを基盤とした性能評価環境の整備を行なった.Simicsシミュレータは,仮想マシンを組み合わせて,マルチコアプロセッサの評価環境を構築できることが最大の特徴である.現在,Simicsの実行環境が整い,評価を開始したところである.一方で,マルチコア化されたプロセッサの応用として,コンピュータグラフィクスのレイトレーシング法の高速化について,研究論文をまとめた.従来は,光線を角錐で,物体を直方体でグループ化する手法が一般的だったが,この高速化手法では,光線を平面で,物体を球体でグループ化する.これにより,各グループをマルチコアの各コアに割り当て,適切にスケジューリングすることで高速化を実現することができる.物体と光線との交差判定アルゴリズムにも工夫を凝らし,準実時間でのレイトレーシング画像生成が可能になることを示した.今後,コンパイラの改良により,ユーザによるアプリケーションの手直しなしに,計算の高速化が可能になると考えている.
|