研究概要 |
本年度は,主として,動的なガス状物体に関して,多重散乱を考慮した高速輝度計算手法の考案と基礎実験を行った.まず,多重散乱の計算における各処理の計算コストを調査したところ,任意の二点間を光が通過する際の減衰率の計算コストが高いことがわかった.そこで,この部分を前もって計算する手法を考案した.すなわち,ガス状物体の内部に多数のサンプル点を発生し,任意の二つのサンプル点間の減衰率をあらかじめ計算しておく.輝度計算の際には,前もって計算したデータを利用すれば,任意の二点間のエネルギーの授受を高速に計算できる.この考え方の基礎プログラムを実装し,基礎実験を行った.実験データとして,動的な雲のデータを用いたところ,数倍から数十倍の高速化が期待できることが確認された.次年度以降,この手法を発展させる.また,以上の研究と並行して,地球規模の雲のデータを可視化するシステムについて開発を行った.前もって任意の方向から見た雲の輝度をすべての点について計算しておくことで高速に大規模な雲の表示を行う.しかし,地球規模の雲の場合,データ量が極めて膨大になるため,ベクトル量子化を利用した圧縮手法を開発した.しかし,圧縮を施してもなおデータサイズが大きいため,データを階層的に管理する手法を開発した.これによって,数百キロから数千キロに及ぶ雲のデータをリアルタイムに表示することが可能となった.また,雲のみでなく,大気の効果や雲が地面に落とす影についても,高速に計算する手法を開発した.これらにより,写実的な雲の表示を高速に行えることを示した.このシステムを用いて,リアルタイムスペースフライトシミュレータを実現した.
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