研究概要 |
第一に,コミュニケーションに関する表現型可塑性の進化モデルを次のように拡張した.可能な言語が存在する空間を極座標で表し,先天的にもつ言語の位置する点として各個体を表すことにより可視化する.各個体は他個体とコミュニケーションを可能とする可塑性の大きさも遺伝的に有する.このモデルで,会話可能な個体数がメリット,可塑性の大きさがコストと働く適応度を設定して進化させた.その結果,ボールドウィン効果が言語進化を加速することが示された.第二に,話し手の利他性に関して,前年度に引き続き,マルチレベル選択モデルに基づくエージェントベースモデルにより,語彙の進化における話し手の利他性の進化を検討した.語彙行列を持つエージェント間で言語ゲームを行うが,その際,集団の構造や集団間の環境条件の差がいかなる影響をもたらすか詳細に検討を行った.その結果,集団の構造が話し手の利他性を進化させうること,さらに単一集団においても,似た遺伝的情報をもつ個体が言葉を理解しやすいという,血縁選択に類推するメカニズムが非明示的に働き,利他性促進の圧を生むことも示された.第三に,フリーライダー個体を抑えるメカニズムの一般的な考察として,物の分配における平等性の創発を調べるためのモデル(D-Iモデル)を考案し,均衡解の解析,および進化実験を行った.ナッシュ考案のDemmandゲームに対し,要求の量だけでなく,要求の強さも戦略としてもたせるものである.その結果,対称的な規範をもつ進化シナリオをデモンストレーションすることができた.以上,3つの方面からの知見を,従来知見に位置付けて考察するとともに,ロボットでの応用可能性に関して検討した.
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