平成20年度は、エージェントが社会において行う交渉のプロセスを人工知能の帰納推論とデフォルト推論を使って形式化した。交渉とは立場や利害が異なる複数のエージェントが、それぞれの目標を達成するためにエージェント間で合意を形成するプロセスである。エージェントが2人の場合、交渉は片方のエージェントが自らの目標を達成するための提案を行い、もう片方のエージェントはその提案が受け入れ可能であれば合意が形成され、受け入れられなければその提案に対する対案を出すというやりとりの繰り返しである。本研究では、あるエージェントが相手から出された提案を受け入れるかどうかを決定する判断を、エージェントが持つ知識ベースにおいてその提案を受け入れるための仮説が生成可能かどうかという帰納推論の問題として捉えた。一方、提案が受け入れられない場合には、双方のエージェントが譲歩を行うことで妥協による合意形成を図るプロセスをデフォルト推論を使って形式化した。上述した帰納推論とデフォルト推論のメカニズムは、論理プログラミングの拡張言語である解集合プログラミングにおいて実現され、エージェント間交渉の計算アルゴリズムの開発と計算量の解析を行った。
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