本年度は、1.エージェント社会における不誠実な推論に関する研究、及び、2.エージェント間交渉における不誠実な取引に関する研究を行った。具体的研究内容は以下の通りである。 1.人間社会では人は自らの利益を確保するために、事実と異なる情報を伝えたり、他人を欺くためにウソをつくことがある。本研究では先ずウソをつくという概念のオントロジーを整備し、人間社会を模擬したマルチエージェントシステムにおいて、あるエージェントが他エージェントを欺くという行為が発現する状況を計算論理を使ってモデル化した。次に、こうした不誠実な推論と仮説推論の一形式であるアブダクションとの類似性に着目し、エージェントが行う不誠実な推論をアブダクティブ論理プログラミングを使って計算する手法を導入した。 2.人間社会では利害が対立する者同士が交渉する場合、それぞれは自らの利益を最大化するために、事実とは異なる情報を提供したり、不利益な事実を隠蔽したりすることがある。本研究では人間社会を模擬したマルチエージェントシステムにおいて、あるエージェントが他エージェントに対して交渉を有利に運ぶために不誠実な取引を行うプロセスを論理的に形式化し、交渉プロトコル及び様々な交渉戦略を導入した。また本プロトコルを解集合プログラミングを使って実現し、エージェントによる自動交渉を実現するためのプラットフォームシステムを開発した。
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