研究概要 |
筆圧痕は筆圧によって紙に形成された圧痕であり,本研究では文書鑑識への応用を目的として,筆圧痕を可視化し,文字判読を容易にする装置の開発に取り組んでいる.21年度は装置の機能改善と応用に取り組んだ. 様々な方向からスキャンした画像群を濃度の乗算により画像合成してきたが,乗算の度に濃度値が小さくなって暗くなるため,21年度はまずコントラスト改善しながら乗算する方法を適用した.その結果,筆圧痕と背景の明暗がはっきりし,かつ背景濃度が均一で文字判読の容易な合成画像が得られた.この成果および前年度までの成果をまとめて2009年秋に学会発表した.また,筆圧痕の影の部分を優先的に合成画像上に残す目的で,画像群の同座標における濃度のMIN値を結果とする比較演算を画像合成に適用した.筆圧痕資料を吸着してテーブルに固定する際,紙のうねりや折れを完全には解消できないため,比較演算ではうねりや折れ部分の影を抽出してしまうことが判明した.さらに,動作の高速化を目的として,各テーブル回転角において2灯の光源のオン・オフを切換えて往復スキャンする方式に取り組んだ.しかしながら,往路と復路の原点位置合わせが極めて困難で,両者のスキャン画像間の位置ずれが解消できないことが判明した.また,往路と復路の180度異なる方向からの斜光線照明では,凹凸部の明暗が逆転するため,画像乗算を行うと明暗が相殺され,筆圧痕を顕在化しにくくなることが判明した.以上のような経緯から,筆圧痕検出には1灯の光源,0~179度の範囲内のスキャン,画像乗算による合成が最適という結論を下した. さらに,本装置の応用として,紙上のより小さなくぼみであるプリンタの拍車痕の検出を試みた.この場合,読取ヘッドを鉛直ではなく30度程度に傾け,照明の入射角も45度程度にすると拍車痕を顕在化できることが判明した.この成果についても2009年秋に学会発表した.
|