研究概要 |
本研究は,人と人とのコミュニケーション成立条件の数理的理解とその工学的応用に向けての基礎研究である.生物の生存に不可欠な実時間情報処理とコミュニケーションが密接に関係していることに着目し,実時間情報処理の数理的本質を理解し,それを支える処理要素を探求することを目的とする.本年度の成果は以下の通りである. 1 現有の視覚目標追跡運動実験システムを視覚目標の提示/非提示を制御できるように改変した.円運動追跡実験において目標周波数を0.1Hz, 0.3Hz, 0.5Hz, 0.7Hzの4条件,円軌道に対し視覚目標の提示割合が100%, 40%, 20%の3条件,系12条件の実験条件を設定した. 2 目標運動に対する手動運動の位相差と目標追跡時の手動(位相)速度スペクトルに着目し解析を行った結果,目標運動が低速の時,目標提示条件の違いによって,手動運動の振舞いは大きく異なる. 100%条件では明らかに観測されない,目標周波数についてのリズム成分が40%条件, 20%条件では観測され,先行性が現れる.この目標提示条件による振舞いの違いは,高速条件ではそれほど顕著ではなく,どの条件においても位相速度にリズム成分が見られ,先行性が観測され易い. 3 手動(位相)速度スペクトルと先行性との関係を実験条件により分類すると,速度スペクトルに現れる1-2Hzのブロードなピークが誤差修正フィードバック制御に対応し,目標運動周波数やその倍周波数に現れるシャープなピークがフィードフォワード制御に対応していると推測できる. 4 実験結果から,手動運動が先行性を示すには速度リズム成分が必要と予測される.誤差フィードバック項と速度フィードフォワード項からなる目標追跡手動運動の単純モデルにおいて,両項に特性の位相関係を持たせたリズム成分を付加すると先行性が現れることがわかった.
|