研究概要 |
最近の子どもを取り巻く環境は著しく変化し,子どもが変容しているといわれる。他者との関係性を捉える力が貧しくなり,共感性の希薄化から不安定な感性が形成され,自然観や環境観といった地球市民としての感性発達に歪みを来たしていると推測できる。このような状況では,豊かな感性を基盤にした生きる力は育ちにくく,選択性が増大し続ける情報社会において主体的な生活者として自立していくことが求められる教育課題と乖離する一方である。本研究では,このような視点に立って,幼児教育に生活技術の多くの要素を含んでいる伝統染織を取り込んだ「遊び」を展開し,それらを通してどのようなスクリプト獲得していくかを研究対象とし,遊びの中で展開される他者(外的環境としてのモノ)との身体的接触や触覚的体験が,幼児期の感性発達に与える影響を評価するための感性パラメータを見つけ出し,幼児教育における感性教育用教材の開発のための基礎データ蓄積を目的とする。本年度は,幼児教育学上の遊びに関する文献を調査し,それらを踏まえて,自然の草木を使った「ものづくり」の視点を取り入れた遊び保育を検討し,実践を行った。1つ目は,伝統的な衣生活をテーマとして「養蚕」に注目した。童謡「あかとんぼ」に出てくるように,桑は日本人の原風景でもあるからである。そこで,園の七夕祭りと融合させるため,桑和紙を漉くことで祭りに意味付けをしていく保育である。2つ目は,古代から利用されてきた葛を多面的に体験させる保育を提案した。ここでは,蔓の利用としてクリスマスリースを自然素材のみで作成することを課題とし,冬の里山を舞台に自分で集めた素材で飾り付けをした。いずれも,日常の保育に深見を与えるプログラムを導入することが重要であり,子ども達の意欲や関心を高められる自然遊びは,幼児の感性発達に重要であることが,目常の描画と作品や取り組み態度を比較することで明らかとなった。次年度は,教材の評価方法として,感性パラメータとなりうる行動や言動を抽出していく。
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