本研究は、生理実験と数理理論を駆使して海馬局所回路網の情報処理メカニズムを理解することを目的としている。生理データより細胞の位相縮約モデルを同定し、神経回路の縮約記述を得て、その情報処理メカニズムの解明を行うものである。平成21年度は以下の成果が得られた。そして、国際論文誌や研究会等でこれらの中間成果を発表した。 1.平成20年度に引き続き、本研究の一貫として開発した「ダイナミッククランプシステム」を用いて、次の電気生理実験を行った。ダイナミッククランプを用いてラット海馬CA1錐体細胞の発火周波数を一定に制御し、発火周期の様様なタイミングに矩形摂動電流を与えて位相応答を測定した。更に、位相応答の測定に成功した細胞に周期外力を与へ、スパイクタイミングの確率的挙動を計測した。平成21年度中に多数の実験サンプルデータが得られた。 2.平成20年度に学術論文紙で発表した「位相応答曲線の統計的推定アルゴリズム」を1で得た実験サンプルデータに適用し、位相応答曲線と背後の白色雑音強度を推定した。更に、推定した位相応答曲線と白色雑音強度を用いた位相ランジュバンモデルにより、周期外力下での神経細胞のスパイクタイミングの確率的挙動を予測した。この予測が十数個の事例で成功しており、本提案手法の有効性を検証することができた。 3.平成20年度に構築した「神経細胞の位相応答曲線と情報符号化の関係を明確にするベイズ的枠組み」の有効性を大規模モンテカルロシミュレーションで検証した。そして、2で得た位相応答曲線に当該理論を適用し、ラット海馬CA1錐体細胞の特徴空間を求めた。 [連携研究者]東京薬科大学・生命科学部・教授 宮川博義 電気生理実験
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