本研究は大別して、(1)強化学習による主観的情動行動学習、(2)身体動作に基づく客観的ファジィ情動推論、(3)インタラクティブ情動コミュニケーション、の3つの研究要素を含んでいる。そのうち、H20年度では、(1)と(2)の基本システムを構築することを目指して研究を進めた。 まず(1)の研究では、脳科学や生理学の知見に基づき、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニンなどの「神経修飾物質系」と喜・怒・哀・楽等の「基本感情」および強化学習を特性づける「メタパラメタ」の3者の関連性を仮定した情動行動学習システムを提案した。本手法により、さまざまな環境下で異なる種類の刺激や報酬を与えたときに、異なる感情行動を生成する情動生成モデルを構築できる。さらに、今年度の研究では、この情動行動学習システムにストレス反応表現を付加し、より人間に近い情動生成機構を構築することもできた。 次に(2)の研究では、舞踏学において知られるラバン理論に基づいてロボットの身体動作のマクロ評価を行い、そこから抽出された身体的特徴量を用いてファジィ推論により基本心理尺度値を求め、心理モデルとして知られるラッセルの円環モデルに基づき、喜・怒・哀・楽の基本感情値を求める手法を提案した。本手法を用いることにより、相手(人間)の動きを観測して、その動作を解析することにより客観的な情動推論が可能となる。さらに、生体情報(脳波)を元に人間の情動を計測し、その結果を用いて情動推論ファジィルールの後件部シングルトンをチューニングすることでより信頼性のあるシステムを構築することを試みた。 提案手法の有効性を検証するため、まず始めに(1)の研究では、敵・味方、えさ、障害物、仲間、巣、などが存在するマルチェージェント社会をシミュレータとして構築し、その中で生活するロボットが主観的情動行動学習により一連の情動行動を獲得することを確認した。またこのエージェントの獲得した情動行動が意図するものかどうかを確認するため、連携研究者の協力を得て、アンケートによる感性評価も行った。さらに別の実験として、CCDカメラ(本研究室に既存)により人間の行動を観察して、客観的ファジィ情動推論により人間の心理状態(感情値)を推論する実験も行った。この実験では、基本感情である、喜・怒・哀・楽の感情値がほぼリアルタイム出力できることを確認した。また、人間に与える印象に関する心理効果を確認するため、人間に装着した脳波電極からの情報を感性スペクトル解析基礎システム(本研究予算にて購入)に取り込み、実際の感情値(喜・怒・哀・楽等)を検出する心理計測実験も行ない、ファジィ情動推論の基本的な有効性を確認することもできた。 尚、本研究に関連する情動行動学習および情動推論の手法に関して、H20年度に国際学会における最新技術の動向調査、および国内学会における4件の研究成果発表も行なった。
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