研究概要 |
言語研究の最終目標の一つに,実際に言語を獲得し,文の理解と産出が可能であるようなシミュレーションモデルを構築することがある.本研究は,そのような長期的目標に向けて,脳内の言語処理過程の基盤を明らかにすることを目指している. 研究代表者は,入力された文を単語へと分節化する過程と、分節化された単語をリアルタムで認知する過程を包括的に扱うニューラルネットワークモデルSegRegを構築した.平成20~21年度には,研究開始後に得られた着想に基づき、心理学的・神経生理学的妥当性および分節化学習のパフォーマンスを向上させたモデルを構築した.平成22年度には,語彙獲得過程を包括的に説明可能にするために,分節化された単語と意味とを対応づけるための学習アルゴリズムについて理論的な検討を行った.さらに,意味との対応付けが分節化学習と同時並行的に進行している可能性を探るために,複数の無意味語を切れ目なく音声呈示し,同時にそれらの無意味語に対応する対象物を視覚呈示して,無意味語と対象物との対応関係を学習させる実験を,成人を対象に行った.無意味語を1語ずつ区切って呈示した場合に学習が成立することは先行研究により示されている(Yu&Smith, 2007).もし無意味語を切れ目なく呈示しても学習が成立すれば,少なくとも成人は,分節化学習と並行して意味との対応付けを学習可能であることを意味する.残念ながら,年度中に行った実験では,音声刺激の不備のため,十分な質のデータが得られなかった.今後,改良した刺激による実験を行い,その結果に基づいて,意味との対応付けを含む語彙獲得過程を説明できるよう,モデルを拡張していく予定である.
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