これまでに、スパイク放電型や発火頻度型の神経モデルを、自己組織化数理モデルよって得られた網膜-外側膝状体(LGN)-視覚野入力層の神経ネットワークに適用してきた。本年はFitzHugh-Nagumoモデルを適用し、視覚野における文脈依存性に関係する細胞応答をプレイド錯視現象に関する解析をした。その結果、低コントラスト刺激では、視覚刺激として提示した2つの方向に応答する細胞群のみが、また高コントラスト刺激では、これらの細胞群の活動が抑圧され、交点の運動方向に応答する細胞群のみが活動することが再現された。興奮/抑制の皮質内相互作用を除くと、このコンポーネントとパターンの交替が起こらなくなることから、この相互作用がプラッド錯視に重要な役割を果たしていること、皮質低コントラスト刺激時では神経活動を高めるように、高コントラスト刺激時では神経活動の発散を抑圧し、活動を一定レベルに保つ働きがあると結論された。さらに、文脈依存応答に関連する2/3層における長距離水平結合の自己組織化シミュレーションを実行した。その結果、方位選択性がほぼ同一の細胞間に興奮性の結合が形成されることが示された。また、長距離水平結合を始めとする発達期における神経ネットワークの形成メカニズムを数理モデルによって明らかにするために、単一方位の視覚環境に相当する自己組織化シミュレーションを実行した。始めにLGN細胞の自発的活動のみを仮定したシミュレーションを実行し、正常飼育に相当する状態として一定のモンテカルロステップ数の間あらゆる方位刺激を与えたシミュレーションを実行した。その結果、正常飼育に相当する初期のステップ数が増加するほど、細胞の方位選択性は高くなることが示された、次に、各ステップ数で得られた結合を初期状態として、単一方位刺激のシミュレーションを継続した。その結果、正常飼育の相当するステップ数が増加すると、単一方位を呈示したことによる影響は抑えられ、ネコの視覚野の生理実験で知られているような感受性曲線を再現することに成功した。
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