(1)周期的な光刺激下での脳波(EEG)データの非線形応答特性は2つの類型(周波数応答領域が狭い型と広い型)に分類されるが、その出現理由が不明であった。非線形モデルの数値計算と実データを詳細に検討し、変調が遅い場合には幅の広い引き込み領域を持ち、変調が速い場合には幅の狭い引き込み領域を持つことがわかった。(2)非線形特性に関する考察を脳波のブラインド信号分離(BSS)の手法を用いて実行し、基本波、2倍高調波、3倍高調波成分は必ずしも全て従属関係にあるわけではなく、「脳の部位によって異なる従属性を持っている」ことを示唆する結果を得た。則ち、脳の神経振動子としての特性は場所によって異なる非線形高調波構造を持つと推定される。この結果は短い区間出の相関関数の同時対角化を基礎とした新しいBSS法によって得られた。(3)本非線形モデルは、現在、観測されている脳波の非線形応答特性を最も多面的に説明できる「柔らかいバネを持つ振動子」となっていることを確認した。周期的な光刺激が神経振動子に相乗的に影響を与えることは、脳を構成する媒質の物性値が時間空間的に変動することが必要である。また、周波数変調の存在は、引き込み幅の広さを規定していることは脳内の環境揺らぎが応答特性にも影響することを意味する。光刺激が相乗的に影響する状況は、光刺激下での興奮反応系などでも観測される。(4)光刺激下の脳波(EEG)のBSS法を精力的に使い「異なる従属性を持つ非線形応答信号」は「異なる信号源となっている」ことが確認できた。これらの結果は、印加光刺激周波数に追従する「引き込み成分」だけでなく、引き込みが起こっていない「誘発α波」でも存在することを確認した。(5)脳波応答の個人差を非線形振動子のパラメタの違いとして表現でき、また、「認知症患者では何故引き込みが起こらないか?」を振動子の特性で説明することが可能になった。
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