研究概要 |
(1)脳波の位相揺らぎは,その巨視的数理モデルに周波数変調として影響する。位相速度の一般化コーシー分布の形状がリスク因子の重要な指標になることを示し,これをリスク因子推定に用いてきた。しかし,標本によっては非線形項が効く場合がある。3次の非線形項があるとき,高精度サンプリングを行うと非線形切断効果が分布の裾に現れ,一般化コーシーと正規分布のハイブリッド型分布を得た。パラメータ推定法も示した。切断効果の存在はリスク因子の発生機序や物連的解釈と関連して重要な意味を持つ。 (2)脳波の外部刺激応答を行うと初期応答に引き続き定常応答が現れる。脳は非線形システムであるので「初期状態依存性」及び「記憶効果」が内在する。微視的には神経スパイク列として観測されるが,このような状況を適切に記述できる数理モデルが必ずしも完成されていない。記憶効果を有する一般化マスター方程式に基付き,任意の記憶関数を持つ一般化ポリア過程の厳密解を得た。外部刺激下でのネコや猿で観測された神経スパイク列の実験データとの対応関係を議論し,複数の時間スケールの緩和モードを考慮する必要性を示した。ヒトでも,視覚刺激下の認知症や聴覚刺激下の統合失調症患者の脳波データは,この緩和モード関数変化が有効なリスク因子となり得ることを示唆する。 (3)脳機能のリスク因子特性把握を視覚,聴覚,体性感覚刺激などのEEG,MEGデータの非線形応答の解析を継続実行した。周期的視覚刺激の場合の2次の高調波応答の出現機序が複雑細胞の特性に起因すること,本研究で提唱してきた一般化久保振動子の妥当性を確認できた。聴覚応答の場合のマウスでの実験結果が久保振動子で説明可能であるかの検討を行った。この実験では,高/低周波数の提示を行っているので2変数の確率結合久保振動子の導入が必要となる。高調波応答秩序の消失が,明確な脳機能疾患のリスク因子となることは周波数依存外部聴覚刺激下で統合失調症患者でも確認できた。
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