研究概要 |
本研究は,統計モデルの母数空間に制約が課されている場合の統計的推測に対して,統計的決定理論の視点から新たな推定手法を開発することを目的としたが,今年度は行列型平均の推定問題を中心に研究をおこなった。行列型平均の推定問題は,平均行列の順序付けされた非負特異値の推定問題に帰着され,その「順序」と「非負」という制約がよりよい推定量を構成する上で重要な情報となる。このことに関連して,今年度は以下の結果を得た(それぞれ,査読付き論文雑誌に掲載された)。 (1) 分散が未知である行列型正規分布において,平均行列の推定問題を2乗損失関数のもとで考え,許容的ミニマクスなベイズ推定量を導出した。また,そのベイズ推定量の特異値について,上記の「順序」と「非負」という性質をもつことを示した。 (2) 相関構造が未知のときの楕円型分布モデルにおいて行列型平均の推定問題を2乗損失関数のもとで考え,ある一般化ベイズ推定量が最尤推定量を改良すること,すなわちミニマクス性をもつことを証明した。その証明において,推定量の特異値が順序をもち,非負であることを利用した。 (3) 楕円型分布モデルの行列型平均について,これまでさまざまな縮小推定量が提案されているが,ベクトル型平均の推定問題と同様に,過度な縮小が起こり得ることが問題となる。この問題を回避するために,縮小推定量の特異値を非負に打ち切る推定量を考え,2乗損失関数のもとで打ち切り推定量が元の縮小推定量を改良することを示した。
|