本年度は株価が瞬間的に上下する状況の数学モデル(ジャンプを含む株価過程)作成の基礎を築くことが主たる目的であった。この分野の世界最先端の研究の現状を正しく把握するために、種々の文献収集と、それらを熟読して整理することが重要な作業であった。文献検索の結果、この分野に対してはそれほど多くの文献を得ることはできず、研究段階のワーキングペーパーが主流であることが判明した。ただ、2008年度は米国発のサブプライム問題の影響で、株価が乱高下することが多く、研究課題に記されているような株価のジャンプがかなりの頻度で見受けられ、とくに、下向きのジャンプが顕著であったため、直接に面談した機関投資家からリスク・ヘッジの重要性が声高く叫ばれたのが印象的であった。現実にも下向きのジャンプを示すデータが多数観察されたため、理論上で想像していたものかなり異なるモデルを再構築する必要があることが判明した。 本年度は理論的興味から、上下が平等にジャンプする株価モデルを構築し、この分野で顕著な研究を行っている韓国とマレーシアの研究者を交えた研究会に出席し、そのモデルの長所・短所に関して議論し、種々のコメントを受けた。また、数学面だけでなく、実務面と経済学からの眼を通して、浮かび上がった問題点を幾つか指摘してもらった。 まだ完ぺきなモデルの構築途上であり、学術論文の形として陽の眼を得ていないが、途中の考え方などを整理する意味で無裁定理論を基礎にした金融工学に関する書物を執筆し、5月中旬に発刊する。公刊後は、我が国のファイナンス関連の研究者の目に触れることから、研究課題のリスク・ヘッジに対してさまざまな反応を参考にし、とくに、実務に携わる人々の意見を取り入れたモデル構築の基礎としたい。
|