研究概要 |
環境問題における統計的問題、特に生態リスク評価、発生源解析および環境化学物質測定の要因分析に現れる識別問題を解決するためのベイズ的方法について研究した。また、開発した方法を実際の環境問題に適用し、方法の実用性を検証すると共に、環境問題自体の解決にも尽力した。 生態リスク評価については、ハザード比等の恣意的な指標に代わる合理的な指標として提案された、化学物質の影響を受ける生物種の割合を示す期待影響割合を利用するため、実際のデータだけを頼りに推定すると許容できない程の偏りが生じる場合が多いとされる、化学物質の環境濃度分布と化学物質に対する生物種の感受性分布、および両分布に基づき計算される期待影響割合を、偏りを最小限に抑えて推定できるベイズ的方法を開発し、河川水に含まれる金属の生態リスク評価に使用した(Hayashi and Kashiwagi,2011)。 また、化学物質の急性生態毒性から慢性生態毒性を推定する方法についても検討した。生態保護にとって、急性毒性よりも慢性毒性の方が重要であるが、慢性毒性試験は多くの時間と費用を要するため、慢性毒性データは非常に少ないのが実情である。そのため、比較的豊富に存在する急性毒性データから慢性毒性を精度良く推定する方法を開発する必要が生じていた。 発生源解析については、発生源組成の精密化を図るため、PCB製品の揮発に伴う組成変化について検討した(今井 他,2011)。 環境化学物質測定の要因分析については、底質中有機スズの測定データを対象に、方法について更に検討した。 以上の話題に加え、地球温暖化に伴う日本沿岸域の水質変化、および土壌中POPsの汚染診断法についても検討した。水質変化については、長期変動傾向を推定するための季節変動モデルを開発し、東京湾の各種データに適用した(二宮 他2011; 岩渕 他,2011; 永山 他,2011; 柏木 他, 2011,2012)。また、土壌中POPsの汚染診断法については、空間サンプリングとその誤差評価について検討した(柏木,2011,2012)。
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