平成22年度は、詳細な心筋細胞モデルを導入した圧反射を含む循環モデル開発研究の最終年度として、解糖系とミトコンドリアにおけるTCAサイクルを連成させ、虚血状態におけるエネルギー代謝の評価が可能で、さらに血圧変動に対して、アドレナリン等の神経制御によるβ受容体刺激により変力作用を持つ細胞モデルと循環モデルの連成モデルを実現した。このモデルでは、部分的に低血流状態を生じている心臓における局所エネルギー代謝状態の評価等が可能であり、起立負荷等の負荷変動に対して、局所心筋状態がどのように変化するかを評価することができた。その結果、ミトコンドリア酸素分圧が低下するのに従って、電子伝達系の動きが止まり、NADHが不足することによりTCAサイクルが停止し、生成されたACoAが滞留するため、解糖系の動きも阻害される結果となった。また、ATP濃度の低下に伴いHexokinaseが停止するためグルコースから解糖系への基質供給が低下することが確認された。このような反応は個々の反応のバランスにより経過が大きく変化することが確認できた。 このような評価が可能なモデルは世界的にも例がなく有用性が高いが、モデルの妥当性を検証するための動物実験結果が少ないため、現在、評価用データを調査中である。心筋エネルギー代謝では、心筋梗塞等によるクレアチン等のエネルギー物質のバッファが細胞に与える影響が研究されているが、本モデルでは、このような病的状態の評価も可能であり、現在シミュレーション実験を進めている段階である。
|