過去2年間の基礎研究により、溶質-溶媒(水分子)相互作用に起因するエントロピー項を定量的に取り扱うことが可能な分子軌道計算モデルを確立することができた。そこで今年度は本計算モデルをより多くの原子を含む系に適用し、1)オリゴペプチドの二次構造、2)核酸塩基対のスタッキング、3)核酸-色素および核酸塩基-アミノ酸相互作用に関する自由エネルギー解析を行った。また、生体分子を含む水和クラスターの電子構造や生体分子の周りに存在する水分子の配向(水和構造)についても検討した。 その結果、1)においては、計算化学的に初めてアラニンとグリシンのヘリックス形成傾向の違いを説明できた。また、オリゴペプチド(ヘリックス構造)の周囲に存在する多くの水分子は、ペプチド自身の大きな双極子モーメントを相殺するように配向していることや、水素結合を通してペプチドと水分子との間で電荷移動がおこっていることが明らかとなった。2)においては、2つの核酸塩基対が一層分の水分子を含む程度の距離からπ-πスタッキングを形成する距離へ接近する際、低振動数を示す振動モードの振動数がより低下する(すなわち、エントロピー変化量が正となる)ことにより、系の自由エネルギーを低下させることが明らかとなった。よって、本計算モデルにより二分子会合に伴う排除体積効果に起因するエントロピー変化量を定量的に解析できることが分かった。3)においては、大量の計算資源を必要とする上、エンタルピー変化量を過大評価する傾向があるものの、従来の実験的知見と一致する結果を得ることができた。 さらに、昨年度開発した、新規なミトコンドリアイメージング用水溶性蛍光プローブ(フルオレン誘導体)の二光子吸収特性を評価したところ、水溶液中でも従来の蛍光プローブよりも二光子吸収効率が大きく、二光子励起蛍光プローブとして優れた特性を有することが分かった。
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