従来の海馬における記憶情報処理(可塑性)の生理実験による研究は、入力経路による情報処理のすみ分けが不十分であり、それによりデンドライトでの情報表現様式が明確なものではなかった。そこではじめに、海馬ニューロンのデンドライト上のシナプス入力の時間と場所に依存した可塑性誘起を調べた。続いて、ProximlalデンドライトとDistalデンドライト電位応答のダイナミクスと可塑性を調べ、ニューロンにおける2入力の相互作用による情報統合について調べた。結果として逆伝播活動電位に対して抑制性入力(IPSP)によるシャンティング効果や興奮性入力(EPSP)によるエンハンスが起こり、Distal部位での入力の可塑性に対してProximalデンドライト入力のタイミングが大きく関与することを明らかにした。次に、抑制回路に焦点を当て、興奮性回路網がおりなすダイナミクスが抑制回路の入力位置による影響をを明らかにし、NEURONシミュレータを用いてその結果の検証を行い構築したモデルの妥当性を示した。平成23年度においては、実験結果から構築したローカルなネットワークモデルにアクティブデンドライトで誘起されるローカルスパイクも考慮に入れ、海馬CA1野ニューロンのデンドライトにおけるアクティブ伝送とパッシブ伝送および興奮性・抑制性入力回路を含む統合的ローカルネットワークモデルの構築を行った。本研究の知見は、データベース化されたことにより、今後の神経細胞の樹状突起における計算理論の1つの基盤になったと信じる。
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