I.昨年度構築した時系列想起の神経機構の生物物理モデルを、想起パターン間に重なりがある場合に拡張した。N個のニューロンから確率pでニューロンを取り出し、取り出されたニューロンの集団をパターンAに対応させる。同様の操作を繰り返し、パターンB、C、…に対応するニューロン集団を定める。パターンA、B、C、…に対応するニューロン集団の間には重なりがあり、これは実際の脳における情報表現と符合する。各集団内において、ニューロンはリカレント結合する。さらに、AからB、BからC、CからD、…という具合に、集団間にフィードフォワード結合があるとする。個々のスパイク発生ニューロンにafterdepolarizationに基づくヒステリシス特性を付与し、さらに背景ノイズを付加する。以上の設定において、準安定状態遷移の連鎖としての時系列的想起A→B→C→…が実現されることを確認した。リカレントおよびフィードフォワード結合がコバリアンス学習則に従うことが、時系列想起がロバストに行われるための条件であることを見出した。 II.ヒステリシスニューロンのネットワークの確率過程動力学による時系列生成が、時系列をベイズ推定する過程に他ならないことを証明した。これにより、Iのモデルにおける時系列想起の情報論的意味が明らかになった。このベイズ推定では、ニューロン群活性の初期状態が「証左」を表し、シナプス行列から定められる確率分布が「事前知識」を表す。時系列を確率変数とする事後確率分布を定める分配関数は、経路積分により定式化される。
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