研究概要 |
哺乳類MAPキナーゼ(MAPK)経路の足場タンパク質は、シグナル伝達の特異性を規定する制御因子であり、MAPKの時間的・空間的制御にも関わると考えられている。しかし、詳細については不明な点が多い。我々は、自らのグループが同定した足場タンパク質JSAP1を中心に解析を進めており、今年度の研究成果は以下の通りである。 1. 抗プロゲステロン剤RU-486の経口投与により遺伝子破壊が誘導可能なJsap1コンディッショナルノックアウトマウス(Jsap1^<flox/flox>;GluRε3-CrePR)では効率よく遺伝子破壊を行うことはできなかった。そこで、GluRε3-Creノックインマウスを用い、小脳顆粒前駆細胞特異的かつ非誘導型Jsap1コンディッショナルノックアウトマウスの作出に着手した。 2. 発達期小脳について、JSAP1、活性化型JNK、細胞増殖マーカーKi67、および分化マーカーNeuNに対する抗体を用いた免疫組織染色を行った。その結果、JSAP1および活性化型JNKは共に、外顆粒層の内、増殖を停止した顆粒前駆細胞が多く存在する細胞層で強く発現していることを見出した。 3. 小脳初代培養系を用いてJSAP1-JNKシグナル伝達系に関する解析を行った。その際、野生型JSAP1、JNK結合能を欠く変異JSAP1、およびJSAP1特異的shRNA発現ベクターを使用した。また、足場タンパク質JSAP1の質的および量的変化に伴う顆粒前駆細胞の運命(増殖・分化)は、抗Ki67, NeuN抗体を用いた免疫細胞化学法により評価した。 4. 上記3および4の結果から、JSAP1-JNKシグナル伝達系は、小脳顆粒前駆細胞のプログラムを増殖型から分化型に変換する役割を担っていることが強く示唆された。
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